そんな60年代のアメリカの広告業界を舞台にしたTVドラマ”MAD MEN”はケーブルテレビ向け番組であったにもかかわらず、番組が放映された2008年から2010年の3年連続でアメリカでもっとも権威あるアワード・エミー賞(計15タイトル)を獲得、ゴールデングローブ賞も同じく3年連続で受賞したほか、Time、AFC、NewyorkTimesなど各誌のリビューでも賞賛を浴びた。
中でも試写の段階から絶賛されたのが、徹底した時代考証により完璧に再現された1960年代の風俗であった。 画面に登場するすべてのモノは舞台設定とのデートスタンプの整合性が月単位でチェック・検証されたのはもちろん、登場人物のヘアスタイルやファッションは各役側のキャラに合わせてタイムラグ(あえて流行遅れのスタイルをあてがう)も設定された。こだわったのは絵ズラだけではなく、現代の米TV番組ではタブー視されている喫煙シーンや人種差別・性差別発言を含んだスケッチもリアルに描かれた。脚本を担当し製作を指揮したマシューワイマー曰く”60年代を舞台にしておいて、こうした当時のシーンに一切触れないとしたら、パロディにしかならない”。
物語の舞台となったスターリングクーパーエージェンシーのオフィスでは整然と並べられたデスクで女性社員達がタイプに向かう。使っているのはSelectric。イームズも参加したデザインプロジェクトを率いたElliotNoyleによる新生IBMを象徴する斬新なデザインと画期的な機構(ボール状の活版フォント)を備えたタイプライターだった。そして、そのタイプライターとセットで、各デスクに配置されているのが、タイプする手元を照らすDAZOR社のデスクランプ、DAZOR1000だった。
MADMENではデスク照明についても、キャラに応じた使い分けがなされていて、同じオフィスにあっても、セクレタリやディレクタークラスのデスクにはCARIOやTAMASOといった、よりデコラティブなランプがあてがわれていた。DAZORはあくまで、タイピングという実務、作業のためのタスクライトとしてのツールでありデバイスであることを改めて確認することができる。
DAZOR1000
シンプルでモダンなミッドセンチュリーの普遍的デザインは1940年代から60年以上にわたり、デザインの変更を一切うけずに生産され続けてきました。鋳物のスタンドベースとフルメタルのボディの安定感・重厚感は、いまどきの軽薄な照明には決っしてかもしだせない存在感と所有する喜びを与えてくれます。デスクワークを照らす照明にビンテージの工業製品を使う。新鮮なでクールな組み合わせ、というだけでなく理にかなったチョイスでもあると思います。
]]>1930年代後半、ワシントン大学教授アルバート・パーベルは、この”動かしやすくかつ動かない”を両立する”フローティング・アーム”機構を備えた照明の着想を得た。それは締め付けて固定するという旧来の発想を離れた斬新なアイディアで、強力なスプリングがどのようなポジションにおいても常に重力と拮抗して、アームの位置を保持し支えてくれるというものだった。ダブルアームの一端が移動しテコの支点が移動することで、常にスプリングと重力の力が拮抗するように調節機能が働く。
締め付けて固定しているのではなく、力のバランス(均衡)によりポジションが保持されていることから極わずかな力を加えるだけで、その均衡は破られて容易にポジションを移動・調節することができ、手を離せば再びそのままのポジションを保持することが可能となった。”指一本で調節可能” easily positioned with a touch of the finger というコピーが生まれた。デイザーの創業者ハリー・デイゼイは、パーベル教授がこの画期的な着想を得ていた時期、同じイリノイ州でバターを攪拌する機械を製造する工場を経営していた。ハリーは教授がもちかけてきたこの考案の商品化にビジネス上の将来性を見出すと攪拌機の工場をきっぱりと廃業し、この考案に基づくタスクライトを製造する工場に作り変える。こうして1938年、パーベル教授を共同経営者に迎え、ミズウリ州セントルイスにデイザー・マニュファクチャリング・コープが操業を開始する。
さらに、デイザーは当時GEが10年以上の開発研究を経てようやく製品化にこぎつけたばかりの蛍光灯にも着目した。蛍光灯の物性が白熱球にくらべ、さまざまな点で作業照明としての適性に優れていることを見抜くと、デイザーは世界で初めて蛍光灯を光源とするタスクライトを製品化した。蛍光灯のタスクライトは、ねらい通りにプロフェッショナルやクラフトマン達から高い評価を得たことはもとよりその消費電力の低さや経済性の面でも従来の白熱バルブより優れた性能を発揮した。
1940年代には、連邦政府がこの消費電力の少ないデイザーのデスクライトとそのクオリティに着目し、官公庁のオフィス・ファシリティへの全面的な採用を進めるところとなる。こうして、デイザーの知名度・シェアはさらに飛躍的に高まっていく。指一本で調節できるフローティング・アーム機構を備え、精密作業に適した蛍光灯バルブを採用したタスクライトが業界のデファクトとなるまでにさほど時間はかからず、”デイザー”の名称はワークベンチを照らす作業用照明の代名詞となっていった。
機能美に徹しつつも、ミッドセンチュリー特有の優雅で普遍的かつ無駄のないデザインは、40年代から基本デザインの変更を必要としなかった。70年以上にわたりかたちをかえることなくプロフェッショナルの仕事を静かに照らしてきたデイザーのタスクライトにはアメリカのモノ作りの歴史、クラフトマンシップの歴史・伝統・信念・プライドが凝縮されている。ミッドセンチュリー・インダストリーデザインの再評価の中で、本国アメリカでもデイザー製品の普遍性・実用性・機能美に対する再評価が高まっている。デザインだけでなく、機能という点でも、さらには歴史という点でもガレージやベンチにアメリカの職人気質のスピリットを湛えてくれる逸品中の逸品。
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